キスの思い出



彼女は、微妙な沈黙というか、いわゆる良い雰囲気が苦手だった。

俺はただおしゃべりしたりしてるだけでも楽しくて嬉しかったし、
そもそも鈍感だから意図的に良い雰囲気なんて作れなくて、
まあ、そういう状況になること自体少なかったんだけど。

その日、映画を観に行った帰り道の彼女は、少しいつもと違ってた。
あきらかに普段より口数が少なくて、ぽつぽつとしゃべっては、
いつも持ってたHINT MINTを時々、齧ったり。

その雰囲気の意味に、彼女を家まで送ったその玄関先で気付いて、
で、何言ったのか覚えてないけど、俺はとにかく彼女が寄りかかった
玄関のドアに手をついてキスした

俺なんか緊張して手は震えるわ心拍は上がるわで、何もできずに
ただじっとしてただけだったけれど、唇離したら、彼女下向いて
ものすごく恥ずかしそうに、小さな声で
「わぁ……してもうたぁ……」

うまい言葉が見つからなくて、でも何かしてあげたくて、
俺は相変わらず心臓ばくばくさせながら、そのまま、ただ黙って
彼女をぎゅっと抱きしめた。
二人とも生まれて初めて誰かと付き合った、当時高一同士。

後で聞いたら、彼女、その日は俺たちの関係を少し先に進めるんだと、
朝からこっそり決意秘めてたんだとか。

いつか彼女ができたら、映画みたいな
女の子が思いっきり背伸びしちゃう身長差なキスシーン、
やってみたいって密かに憧れてた

まあ実際は背低かったから無理なんだけど
実はこれがけっこうコンプレックスだった

で、高2の今頃の話
当時付き合い始めたばかりの、
並ぶとピタッと背が揃う同じ身長の彼女と街歩いてて、
モデルみたいなカッコいい身長差カップルを見かけた

後から考えたらその時きっと何か顔に出ちゃってたんだろな、
彼女いきなり小声で
「私はあんまり背が高い人は苦手だなぁ」
とか言い出して、それから
「だってさぁ、きっと疲れるよ?背伸びとかね」

その時の俺には話の脈絡が全然解らなくて
えーっと、何の話?とか聞こうと思って横向いたら
急に彼女の顔が近づいてきて、そのまま軽くさっとキスされた

びっくりしてドキドキして、ちょっと硬直してたら、
彼女恥ずかしそうに笑いながら、「ほらね?」だって。
もう何か唐突に、この子にもっともっと惚れられたいって
思ってしまった



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