鳴かない猫



昔話だけど。

実家の猫は赤ちゃんの時、空き地で目も潰れて放置され、泣き喚いていたところを保護したんだ。

正直、化け猫のようで触るのも躊躇するほどの悲惨さだった。

目は病院で治療してもらって開いたけど、命の保証は出来ませんと言われた。

だけどちゃんと育ってくれてね。

本当に毛並みも美しく、ビックリするほどの美猫になったんよ。

ただ、あの空き地で声の限り鳴き続けたせいか声帯が潰れ、鳴かない猫だった。

で、時は流れてさ。

俺が人に裏切られたり、人生の辛苦を舐めた時期があってね。

ある日、もうどうしようもない、死のう、と天井から紐をぶら下げたのさ。

正に紐に首を通した時だったよ。

猫が窓から部屋に入って来て、俺の足元にまとわりついて、

「ニャーニャー」

と鳴き声を上げたんだ。

ビックリしてね。こいつの鳴き声なんて、掠れた小さな声しか聞いたことがなかったから。

うちの猫は、俺の命の恩人だ。

今でも18年以上、長生きしてくれている最高の猫だ。