【家族の泣ける話】俺名義の口座



俺の両親は3歳の時に離婚した。親父の暴力が原因だった。

親父の顔は覚えてないけど殴られた事だけは覚えてた。
母は親父の話をするといつも嫌な顔をした。

そんな母が、俺の二十歳の誕生日に親父の連絡先を教えてくれた。

「会うかどうかはお前に任せる」

そう言って。
まぁ電話して会う事になって、17年ぶりに親父の顔を見た。

俺はバカだから、何を話していいかわからなくてブン殴ってしまった。
自分が何て叫んでたかはちゃんと覚えてないけれども、周囲の人間の目を気にしないで、自分で殴り飛ばした親父の胸で泣いていた。

延々と泣いてる俺の肩を掴んで、親父は一言

「お前はもっと痛かったんだよな」って。

そう言って俺が殴った頬をさすりながら真剣な顔で俺を見ていた。
それでまた泣いた。
落ち付いた後、親父と酒を飲んだ。

どうってことない普通の居酒屋でだ。
今何をしてるか。

母が元気かどうか。

再婚した親父の家庭は上手く行ってるのか。

そんな話をしながらずっと飲んでた。

帰り際に「母さんに渡しといてくれ」と言って俺に封筒を渡した。

帰って母に渡したが、俺はしばらくそれが何か知らなかった。
俺も今は27で、社会に出て、結婚もして、そこそこの生活はしていると思う。
最近、親父が死んだと聞いて、その時は悲しいけれど不思議と涙は出なかった。

あの時さんざん泣いたせいなのかなー、とかドライに考えてた。

が、

母にあの時の封筒の中身が何だったのかその時聞いた。
俺名義の口座の通帳だったらしい。
一緒に酒を飲んだ時、親父は「今の家庭は上手く行ってるよ」なんて言ってたが、母に聞いたところ、再婚はせずにずっと一人で暮らしていたらしい。
毎月、給料からその口座に一定額入金していたらしく、通帳には綺麗に同じ金額が並んでた。

(後で記帳したら、親父が死ぬギリギリの月まで、毎月毎月入金されていた)
その話を聞いて、はじめて泣いた。

葬式では、その時よりも親父を殴ったときよりも、もっともっと泣いていた。
親父が再婚したなんて嘘をついていた理由はわからないままだったけど。

ありがとう。そう素直に思った。