【家族の泣ける話】AccidentBreak



私は「元」バンドマンだった。

あの頃は楽しかった。みんなでワイワイ騒ぎ、曲をつくり、文化祭で発表し、調子に乗って音楽会社に作った曲応募してみたり。まぁ、結果は惨敗だったけど。

けど、それでも楽しかった。

そんな楽しいバンドをやめてしまったのには理由がある。私の母が急に病気になり、お金も必要になってきたので経費やらなんやら掛かるバンドは続けたくても続けられなくなったのだ。

しかし、なんとしてでも音楽関係の仕事に就きたかった私は頑張りに頑張ってやっとの思いで、この音楽会社に入社したのだ。

それはもうなまけものの私とは思えないほどの頑張りっぷりだった。

しかし現実はとても非情で、私はこの会社でいい成績も残せず「ダメ社員」というレッテルを貼られたのだ。

それに加え、母の病状も悪化する一方である。正に踏んだり蹴ったりとはこのことだろう。

私はこの常日頃のストレスを発散するべく、たった一人で飲み屋をはしごしていた。

一件目、二件目……。と続くに連れて心の中にポッカリと穴があいたように感じられた。

私はこんな所で何をやってるんだろう。このままでいいんだろうか。そんな思いが心の中を飛び交う。

そして三件目に行く途中。私は一組の路上ライブをしているバンドを見つけた。

私は泣いてしまった。それと同時に、このバンドだ! とも思った。

彼らは、とても輝いていたのだ。そしてなにより、純粋に音楽を楽しんでいた頃の私によく似ていた。

泣いてしまった私を見て、彼らは驚きも慰めもせず、ただじっと私を見つめて、荒々しく、時に静かに、演奏していた。

中でもボーカルの青年は特に光を放っていた。

私は一気に酔いが覚め、徐に名刺を取り出す。

「私、音楽会社に勤めております。金川夏菜というものなんですが……」

向こうにとっても私にとっても、これが初のスカウトとなった。

このスカウトは大成功し、私のがんばりに比例するかのように給料は上がり、給料が上がるのに比例し、バンドも成長していった。

今、私は母と一緒に「Accident Break」というバンドを聞いている。