最愛の人



『今度そっちいくから』

『いや、俺が戻るから待ってろ』

最後に交わしたのはそんな会話だった。

今度会ったらプロポーズしようと、決めていた。
俺には彼女以外考えられなかったし、正直遠距離でいるのも寂しくて限界だった。


彼女も薄々気がついてはいたようだった。
それから三日後の朝、俺はテレビの前で愕然とした。
瞬きすらできないまま、立ち尽くしていたと思う。
気がついたときには、携帯を握りしめて、知り合いに片っ端から電話していた。
全部、繋がらなかった。
大丈夫だ、少しの怪我ぐらいで、生きてる。
必死に言い聞かせながら、震える手で何度も何度も電話をかけた。

全て解ったのは次の日の夜。
俺の母親が、泣きながら電話をしてきて言った。
彼女が亡くなったのだと。
俺は聞いた瞬間に、携帯を壁に投げつけた。

そして、生まれて初めて声を上げて泣いた。
命日は昨日。
時が来れば否が応でも思い出す。
俺の時間は、あの日から動かない。
でも俺自身はそれでいいと思っている。
彼女の他に、愛したいと思える人はいないから。

人は、いつ死ぬのか誰もわからない。
失ってからでは、すべてが遅すぎる。
だから好きな人がいるヤツ、俺のようにはならないで欲しい。

ただ、それだけが言いたかった。