東京のガイドブック



東京で単身赴任してたとき、連休とかにはいつも嫁が来て、家のことなどしてくれていた。

母にも、たまには東京来いよと言ってたんだけど、人混みが苦手だと決して来なかった。

そんな母が脳梗塞で突然死んじゃった。

呆然としたまま遺品を整理していたら、東京のガイドブックが出てきた。

皇居とか、浅草とかベタなところに一杯赤鉛筆で線引いてあって、何度も読み返したらしくボロボロになってた。

親父に聞いたら、

「行きたかったんだけど嫁の方ががいいだろう」

って我慢してたんだそうだ。

自分は肉が嫌いなくせに、俺の好きそうな焼肉屋とかにも一杯線引いてあって、俺と一緒に回るのを夢見てたみたい。

俺としては義理で誘っただけなんだけど、誘われた後は、

「何回も何回も、息子が来いと言ってくれた」

と喜んでいたらしい。

一緒に行きたかった場所には、俺の名前が書いてあって、それがたくさんたくさん書いてあって…

死に顔を見たときよりも、葬式の時よりもすっごく泣いた。

田舎に戻った今でも、生きてる間に呼ばなかったことずっと後悔している。