お母さん代わりだったお兄ちゃんへ



私が生まれてすぐに父が亡くなり、小学校に入る直前に母が亡くなりました。
幼い私の親代わりになってくれたのは、年の離れた兄でした。
当時私は6歳で、兄は18歳。高校を出て、就職したばかりの状況で、突然私の面倒を見なくてはならなくなった兄ですが、思えば一度も嫌な顔をしたことはありませんでした。
あれから15年、兄が結婚、私は就職、上京することになり、一緒に暮らした家を引き払うことに。
その時に見つけたのが兄の日記でした。
母が亡くなった日のこと、私の運動会のこと、初めて料理を作ってあげた日のこと…今思えば、兄もまだ18歳で、親に頼りたい気持ちもあったはずなのに、突然母を失い、幼い私の面倒を見ることはどんなに大変だったことか…
「母さんに会いたい。母さんだったらどうしただろう?」癖のある字で書かれた葛藤を見た瞬間、涙がとまりませんでした。
また、運動会の時は、三つ編みにして欲しいとせがんで兄を困らせたことを日記を読んで思い出しました。
女の子の髪を結ったことなど当然なかった兄は、上手にできず、私は「お母さんは綺麗にやってくれた!」と泣き、騒いだのです。
その時、兄は困ったように笑い、私をたしなめるだけでしたが、本当はとても傷ついていたようです。
「お母さんじゃなくてごめん。上手にできなくてごめん。」と書かれており、髪の結い方などを調べたメモが何枚も挟まっていました。
きっと、この時、私は兄を泣かせてしまったんじゃないかと思います。
もう兄は覚えていないかもしれないけどぎゅっと胸がしめつけられる思いでした。
そして、日記の最後のページに書かれているのは、私が高校に入って初めて兄に料理を作ってあげた時のこと。
とても料理とはいえないようなものだったけど美味しい美味しいといって食べてくれたことは、今でも覚えています。
日記には「本当に優しくて自慢の妹。立派に育ってよかった。お母さんに会わせてあげたかった。」
と書かれていて、これが最後の日記でした。
兄が見たら、恥ずかしいと言って捨ててしまいそうだったので、私はこの日記帳をそっとカバンにしまいました。
この日記帳は、これから先、私にとって最も大切な宝物になることでしょう。
今まで、自分のことなんて二の次で、兄は若い頃の時間は全て私に費やしてしまったように思います。
お兄ちゃん、今までありがとう。そして結婚おめでとう。これからは奥さんと思う存分楽しい時間を過ごしてね。
初任給が出たら、たくさん恩返しするからね。