愛する妻と抱くことの出来なかった我が子



この話は、誰にでも起こることであり、命の誕生というのがどれほど尊いものなのか、奇跡であるのかを感じてほしい。
そして愛する妻と、愛する子供をお持ちのお父さんは今ある現状を「当たり前」だと思わないでほしい。
私は未だに現実を受け入れられないでいる。
しかしこの現実を伝えることで、これから親になる人たち、現在お子さんをお持ちの親御さんたちの胸になにか響くものがあればいいと思っています。
20代前半で結婚した私たち夫婦は、お互い仕事も順調で夫婦の時間をしばらく満喫していました。
妻が30歳に入る前に子供ができるといいねと話していましたが、なかなかそううまくいくものでもありませんでした。
結婚10年目を迎えて、ようやく待望の赤ちゃんを授かることができました。
エコーに写る小さな小さな我が子に、二人で感動して涙を流したのを覚えています。
「この子を大切に大切に育てよう。」二人が親になる決心をしたのもこの頃です。
妊娠中の生活は気を付けなければならないことが多く大変でした。
毎日の食事面や生活面で常にお腹の子を気遣いながらの生活は緊張感がありながらもどこかわくわくした気持ちがあって全く苦ではありませんでした。
妊娠5ヶ月を過ぎて、妻のお腹がちょっとずつ大きくなるにつれて自分が親になる実感もわいてきました。
特になんのトラブルもないまま10ヶ月が過ぎました。
あの日もいつもと何も変わらない笑顔で妻は健診に向かいました。
もしかしたらもう産まれてくるんじゃないかと思いそわそわして妻の帰りを待っていました。
ですが、もう妻が帰ってくることはありませんでした。
この手で抱くことを10ヶ月間待ちわびた我が子にも、一度も会うことができませんでした。
死因は常位胎盤早期剥離という妊娠中や分娩前に胎盤が剥がれ落ちることで、胎児が脳性麻痺や死に至るというものでした。
大量出血により母体も死亡することもあります。原因は未だにはっきりとはわかっていませんが、高齢出産や高血圧などの人に比較的多いとされているようです。
妻は基礎疾患もなく、妊娠中にかかりやすい高血圧や糖尿にも人一倍気をつけていました。
常位胎盤早期剥離は通常のエコーでも気づきにくく、早期発見は難しいそうです。
これから家族3人になる予定だったのに、気づいたら家には私一人取り残されていました。新しく迎え入れるはずだった我が子のために用意した服やおむつ、ベッドを見るたびに涙が溢れ、胸を締め付けられます。
なんで妻が、なんでうちの子が、そう何度も自分自身に問いかけました。
けれどこれは誰が悪いんじゃない。誰しもが起こりうることです。
たまたま私の妻が、私の我が子が常位胎盤早期剥離によってこの世を去ってしまった。
これから出産を控えている人にとっては不安になるかもしれません。
最後まで、決して油断せずに元気な赤ちゃんを産んでください。
そして無事に生まれたことは決して当たり前なんかじゃない。
命の誕生は奇跡なんです。そのことを忘れずに大切に大切に育ててあげてください。