弱虫だと思っていた愛犬の勇気



私の実家にはチョコとクロという2匹の犬がいました。
2匹は兄弟だったのですが、チョコは活発で勇敢な性格。
散歩の時もグイグイ前に出て行くのですが、クロは鈍臭くて、臆病。他の犬を見ると、チョコは友達になろうと近づいて行くのに、クロはいつもチョコの陰に隠れていました。
来客があった時も、知らない人がくると、飛び出していって吠えて教えてくれるチョコと、布団から出てこないクロ。
飼い主にとってはどちらも個性として可愛いけれど、母と一緒に「クロは臆病だね〜」などとよく話していたものでした。
しかし、これが全く間違っていると気づいたのはチョコとクロが10歳になった日の冬のことでした。
私の家は細長い長方形をしていて、玄関があり、家族が集まるリビング、真ん中に祖母の部屋、奥に私の部屋があります。
祖母の部屋の前を通らなければ外に出れない構造です。
祖母はもう80を超えていて、この頃には少し不注意な行動が目立つようになってました。
祖母は石油ストーブの上に、小さなやかんを乗せ、それを空焚きしてしまったようで、近くに燃えやすいものが置いてあったこともあり、火事が起きてしまったのです。
家族は慌てて外に出たのですが、私は耳栓をして寝ていたため、しばらく気が付かずに部屋にいたのです。
その時、火と煙があがっている祖母の部屋の前を通って私の部屋まで呼びにきてくれたのは、あの、臆病だと思っていたクロでした。
クロは外に繋がれていた紐を食いちぎって、火と煙の中に飛び込んでいき、私の部屋の前で吠え続けました。
あそこまで吠えたのも、紐を食いちぎるような力強さも後にも先にもこの時以外に見たことがありません。
私は煙が回る前に家事に気付き、クロを抱えて窓から逃げ出すことができましたが、もしクロが教えてくれなかったら、そのまま煙を吸って死んでいたかもしれません。
クロは弱虫な犬なんかじゃなく、とても勇気のある犬だったのです。
また、兄弟犬のチョコが病気になり、思うように歩けなくなってからは、クロがぴったりとボディガードのようにくっついて歩き、チョコを守ってくれました。

家族のためであれば、どこまでも勇敢で、優しいクロ。
ずっと弱虫だとか、臆病者だなんて言ってごめんね。
チョコが亡くなってしまい、クロも足腰が不自由になって、最近は眠ってばかりのクロですが、今でもあの火事の日の勇敢な姿は目に焼き付いています。
今でも見知らぬ犬は怖がっているし、知らない人がくると隠れてしまうけど、私の中で最も勇敢な、命の恩人です。