聴覚障害というハンデを超えた絆



うちに雑種犬ジローが来たのは、先住犬のイチが3才くらいのときだった。

元々多数飼いをする予定はなかったんだけど、犬友達の中に保護犬の里親を探すボランティアをしている人がいて、話を持ちかけられたのがきっかけ。イチの社交的でほとんど怒らない性格を見て、子犬なら仲良くなれるんじゃないかと思ったそうだ。

夫と一緒に見に行き、すぐに気に入ったが、問題もあった。ジローは先天的な障害で耳が聞こえないというのだ。犬は視覚ではなく嗅覚と聴覚をアンテナにしている動物なので、そのひとつを失っていることは大きなハンデに違いない。実際、ジローは可愛く毛並みもいいのに、中々引き取り手が決まらないのは耳のせいだろうと説明を受けた。

それから数日間、夫とよく話し合い、ネットや書籍などでどういうケアが必要なのか調べた結果、飼うことに決めたのだ。
2人とも気に入っていたということもあるが、このまま知らん顔しても、きっと気になり続けるに違いない。だったら、自分たちで面倒を見たほうがいいに決まっている。相談しやすく面倒見がいいかかりつけの獣医さんもいるし、ジローに会わせてくれた友達も「何でも相談に乗るし、私も手伝う」と言ってくれている。

ジローがやってきたばかりのときは、イチも戸惑っているようだった。耳が聞こえないことでうまくコミュニケーションがとれなかったのだろうと思う。私たちはジローが暮らしやすいように家具の配置を変えたり、最初はジローの行動範囲を限定して、少しずつ広げていくようにした。

2匹の関係が変わりはじめたのは、ジローがきて1カ月が過ぎようとしていた頃。イチがジローを制するように吠えたり、低く唸るような声を出すと、聞こえてないはずのジローがゆっくり近づいて自分の鼻先をイチの顔や首のあたりにつけるような素振りをしたのだ。それ以降、お互いに鼻先や体を触れ合わせるようになり、私には声の代わりに全身を使って意志疎通を図ろうとしているように見えた。ようやくコミュニケーション方法が見つかったからなのか、2匹の距離は急速に縮まり散歩はもちろん、家の中でもずっと一緒にいるようになっていた。

ジローは今まで公園に行っても私のまわりで大人しくしていたのだが、イチと仲良しになってからは他の犬と変わらず元気に遊んでいる。飼い主仲間からも「ジロー君、明るい顔になったね」と言われるようになった。

大きなハンデを背負っているジロー。これから年を重ねていくと、さらに大変なことがあるかもしれない。でも、ジローの兄であり、友達で、味方のイチと飼い主である私達、信頼できる獣医さんもいるから、きっと乗り越えていけると信じている。