いつかのクリスマス前、県外へ出ていった友達にサプライズをしてやろうと考えていた



いつかのクリスマス前、俺は遠くの県外へ出てってしまった友達(以下B)に対し、年末帰省してきたときに何かサプライズ的なものをして楽しませてやろうと考えていた。

ただそれだけだったんだ。
BのSNSのつぶやきを見るまでは。

「俺は人より劣等感が強い気がする。
人と関わらずに過ごしてたほうが……」

驚いた。というよりも衝撃だった。
Bと俺はどこか似ていたせいか、楽しい話、恋の話、悩んでること、なんでも話し合える関係だが、Bがネット上のSNSで弱音を吐くなんてことが滅多になかったからだ。

Bが前から、「県外で大丈夫なのかな、俺…」と言っていたことを思い出した。初めての街での初めての一人暮らし。県外で暮らしたことのない俺は、悩みの大きさに気がついてやれなかったんだと悟った。

「年末にサプライズ
している場合じゃない。」

そう考えた俺は、計画していたサプライズを破棄し、急遽クリスマスにBがいる県へサプライズ訪問しようと思った。

前に計画してた、ただ面白いだけのサプライズとは違う。

「B、お前のためにここまで無茶できるやつがいるんだ。だから笑ってくれ。人と関わらずに過ごしたほうがなんて言うな。」

このメッセージを伝えるための
サプライズを、俺は計画した。

…決めたのはいいが、クリスマス直前だったため、時間に追われて焦っていたのと同時に、俺はテンションが上がっていたのかもしれない。
車よりバイクでのほうがBも笑ってくれるだろうと考えた結果バイクに決め、防寒具や資金を用意し、出発の夜まで仮眠をとる。思えばこれが運命の分かれ道だったのかもしれない。

そして出発時間、12月23日の夜9時となった。いきなり夜中に、しかも県外にバイクで向かうとなったら100%両親が止めるため家族には内緒で出発した。これも間違い。

地元の高速道路へ乗り、ようやくスタートという気分になってくる。真冬でバイク。寒いと思ったがこれなら行けるなと思い鼻歌混じりに走り続けた。

1時間が過ぎた頃、鼻歌なんてものはなかった。手足が凍り、聴こえてくるのは自分自身の「むりむりむり死ぬ死ぬ死ぬ死んじゃう。」というヘタレな声。予測甘過ぎたアホとBに言われると思った。

なんとかパーキングと携帯の地図を活用しながら走り続ける。半分を越えた頃には深夜をまわっていた。メリークリスマス。

ようやくBがいる街の近くまで高速道路を走り、料金所を降りようとしたそのとき、そのときがきた。

「すみません、それ原付じゃない?」との声。

見ると料金所の係員のような人だった。しかし聞こえた意味が分からず、「っへ?」と聞き返してしまう俺。詳しく聞いてみると、というか馬鹿な話なのだが、どうやら俺のバイクのCC(125cc)ではギリギリ高速道路は乗れないらしいのだ。いや本当馬鹿なのだが、高速道路にバイクで一切乗ったことがなかったので、分かっていなかった。

係員さんもどう対応していいかわからず、警察を呼ばれてしまった。他県の警察はより恐く感じた。

その後、かなりのお叱りと対応があったが、なんとか料金所を下ろして貰えた。が、最後に「帰りは下道で帰りなさい。」と釘をさされた。当然だよね。

帰りの時間が圧倒的に伸びてしまうことになるが、そのときの俺はBがいる県まで来れたことが嬉しかったため、気にしてなかった。そしてまだ薄暗い明け方にようやくBが住むらしき地区へ着き、Bが起きそうな時間までネットカフェで休んだ。(Bが休みの日なのはさりげなく確認済み)

街が活発になってきた頃、
俺はついにBへ連絡をとった。

俺「B!起きてる?暇だから飯行こうぜー?」

当然Bは、俺が地元にいると思っているため、

B「なに?どうしたんだよ?(笑)」

という反応。当たり前だよな。
すかさず俺はBの街で貰ったレシートの
画像を送り、

俺「こういうことだから、飯行こう(笑)」

と再度送りつけた。
この時点で俺はドキドキしていた。
このあとの反応を見るために来たのだから。

Bは…

「マジかよ!!!目が覚めたわ!(笑)」

と言ってくれた。

全ての努力が報われた気がした。
Bが喜んでくれたから。

そのあと、疲れた身体を動かしつつ、近くのファミレスで合流を果たした俺達。

俺「よう(笑)」
B「よう、バカ(笑)」
俺「なんでだよ(笑)」
B「クリスマスに何しにきてんだ(笑)」
俺「んだよぉ、こっちはわざわざサプライズで会いにきてやったんだぞ(笑)バイクで10時間くらいかけて(笑)」
B「もっとバカじゃねぇか(笑)あと数日で帰省するのに普通くるかよ(笑)」
俺「来ちゃった(笑)」
B「だからバカやろう(笑)」

ファミレスに入り、色んな話をした。
いつもみたいなたわいのない会話だったが、寒さで死にそうだったこと、警察にお世話になってしまったことなどを伝えると、Bは爆笑していた。

B「アホか(笑)本当にこのためだけに来たのか(笑)」
俺「そりゃーそーだよー、感謝しろよー(笑)Bを笑わせるためだけに来たんだからさ(笑)」
B「分かった分かった(笑)」

楽しい時間だったが、俺の次の日の仕事の都合もあったため、数時間が経ち帰る時間となった。

俺「じゃあ、そろそろ帰るな。」
B「おお、気をつけてな。本当気をつけてな(笑)」
俺「分かってるよ(笑)寒さに死なないように頑張るわ(笑)」
B「死ぬな(笑)」

そこでBとは別れた。少しの時間だけでも、Bを笑わせてあげられたからまあ成功かな?と思いながら帰った。

…帰り道は行きより酷かった。まず下道で距離は長い、速度は出ないのダブルパンチ。おかげに前日以上の寒さ(予報見たら0℃)で再度死にそうになった。途中コンビニの外などで休んだりしたが、寒さと疲れでウトウトしてしまい、「あ、これが遭難で眠くなる人の気持ちかな…」と、少し危険な域まで行きそうになったが、繋ぎとめてくれるものがあった。

休憩中に携帯を見ると、Bが
たびたび連絡をしてくれていたから。

「今どこらへん?」
「寒さ大丈夫?飯は?」
「今○○か、あと半分だな」
「頑張れよ。」

Bの連絡のお陰で、なんとか気力を持ち続けられた俺は行きよりさらに長い時間をかけて、なんとか家へと帰ってこれた。

移動の疲れを感じつつ、8時間後には仕事だったため、俺はすぐ寝た。
仕事でも疲れが残っており、特にバイクで長時間走っていたため、目が充血してギラギラしてたらしく、他職員に心配された。

仕事の休憩中に、ふとSNSを開いて見ていると、Bのつぶやきが更新されていた。

友情を感じた。
ほんとありがと。

……B、結局いつも通りのバカ騒ぎになったけど、「ありがと」はこっちのセリフなんだ。俺が弱気なときにいつも支えられてたから、少しでも返したかっただけなんだ。

だから、いつもありがとう、B。
これからも、Bが落ち込んだときは
俺が笑わせてやる。

そう思った数日後の、年末。
帰省したBと、また今日も、来年も遊ぶ。