祖母との最後の会話



あれは高1の時だったかな。
家も近くて幼馴染の拓也と同じ高校に進学することができて、いつも電車の中でくだらない話で盛り上がっていた。
二人ともゲーマーでもちろん帰宅部だったから、行く時間も帰る時間も大体同じ。
そこそこ田舎だったから電車の中のメンツもなんとなく顔見知りだった。


その中に少し腰の曲がったおばあちゃんがいて、しょっちゅう俺たちに話しかけて来た。
それも毎日毎日同じような話。
俺は「無視しろよ…」と内心思っていたけど、普段特別親切なタイプでもない拓也は何故か律儀にその会話に付き合ってあげていた。


だけど、あの日はちょっと様子が違った。
いつものように俺たちを見つけると話しかけてくるはずのおばあちゃんは、多分、俺たちより何個か先の駅で降りるんだけど、今日は何故か同じ駅でおりて、降りたはいいもののオロオロと駅で立ち尽くしているのだ。
聞くと、どこにいけばいいかわからないし迷子になったと言っている。


俺は「適当に駅員さんに引き渡して帰ろう」と拓也に提案したけど、拓也は「おばあちゃん、財布見せて」
というと病院の診察券と予約票を見つけ、「今日の9時から◯◯病院でしょ?じゃあ次の次の駅だよ。」と優しく諭していた。
それでもオロオロするおばあちゃんの手を引くと、なんとまた電車に乗り込み、学校とは違う駅の方向へ向かってしまった。
俺も慌てて追いかけ、結局おばあちゃんの通っている病院の最寄駅で一緒に降りた。


駅に降りると大学生くらいの若い女性が取り乱した様子でおばあちゃんに駆け寄ってくる。
事情を話すと、俺と拓也の手を握りながら何度もなんども「本当にありがとう!」とお礼を言われた。
この女性はおばあちゃんのお孫さんで、最近、迷子になることが増えて、通院をさせるのが心配だったけど一人で行けると聞かなかったそう。
病院から予約の時間になってもおばあちゃんが来ていないと家に連絡があり、みんなで慌てて探しに出たところだったという。


「今時の高校生でこんな親切な子たちがいるんだねえ!」
と女性は感動した様子で、駅ナカのコンビニでお礼にとパンやお菓子、ジュースなどを買ってくれた。
「私、一緒に住んでると、どうしてもばあちゃんに優しくなれない時があるんだ。今日も一人で行ける、危ないよって言い争いになって、じゃあ行ってきな!って追い出しちゃったんだけど、すぐにまずいことしたって気づいた…でも危ないとこだったよね」
と目に涙を浮かべていた。
すると拓也が「実は俺、中三の頃、いつもなんでも甘やかしてくれるばあちゃんに、ゲームをねだったら、受験の邪魔になるから買ってあげられないって断られて…母ちゃんと父ちゃんに止められてたかららしいんだけど、俺はばあちゃんにクソババー!って悪態ついて、そのまま不貞腐れてずっと口聞かなかった。そしたら結局、口聞かないまま、ばあちゃん死んじゃって。それ以来、後悔してんのか、似たような雰囲気のばあちゃんほっとけなくて。」
「俺みたいに、意地はってたらそのまま会えなくなっちゃうこともあるし、こうやってすぐに探しに行ってあげるのすごいと思います!」
今までちゃらんぽらんだと思ってた拓也がなんだか大きく見えた。
拓也の行動と、その言葉で、おばあちゃんだけでなくこの女性も救われたような表情をしていて、少し面倒臭がっていた自分が恥ずかしかった。


俺には照れ臭かったのか、そんな話は一切してくれなかったので驚いたけど、あの日以来、俺もおばあちゃんと拓也の会話に積極的に参加するようになった。
この一件がきっかけで俺は今、介護の仕事をしている。
困っているお年寄りだけでなく、その人たちを支える家族も助けられることに気づいたからだ。



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