優しい店主

ある店(おそらく薬局)の前で、中年の女性が怒っている。

どうやら、万引き少年を捕まえたらしい。

少年はあまり裕福ではないのだろう。

見るからに貧しそうな服装をしている。

「何を盗ったんだい?見せな!」

中年女性は、少年のポケットをまさぐった。

ポケットからは複数の薬が出てきた。

「これで何するつもりだったんだ?」

中年女性は少年の頭を叩いた。

少年はうつむきながら、言った。

「お母さんに・・・」

怒り狂う中年女性。

そこへ、一人の男が仲裁に入った。

この男、近所の飲食店の店主らしい。

一連のトラブルを見ていたのだろう。

店主の男は少年に向かって言った。

「お母さんは、病気なのか?」

少年はうつむいている。

言葉はないが、首を縦に振った。

店主の男は、薬局の中年女性にお金を渡した。

少年が盗んだ商品を買い取ったのだ。

さらに、男は自分の娘(まだ小学生くらい)に向かって叫ぶ。

「おい、野菜スープ(を持ってこい)!」

娘は頷き、野菜スープが入った袋を持ってきた。

男は、野菜スープと買い取った薬を少年へ差し出した。

少年は何も言わずに、ひったくるようにして袋を持って行った。

~30年後~

ずいぶん歳をとった男が店で料理を作っている。

この男は、かつて少年を助けた店主である。

今でも同じ店で、店主をしているようだ。

相変わらず優しい男だった。

ホームレスに無料で料理を分け与えている。

当時、まだ小学生くらいだった娘も立派な大人になって父親の店で働いていた。

そのときだった。

店主の男が突然、倒れてしまったのだ。

慌てて駆け寄る娘。

~~~店主の男は、病院で呼吸器をつけていた。

重い病気だったのだ。

治療にかかる費用は莫大なものだった。(792000バーツ)

とうてい娘には払える額ではない。

娘は泣く泣く、自分の家(店)を売りに出した。

そんなある日。

娘は父親の看病で疲れていたのだろう。

父親の眠るベッドに、突っ伏して眠ってしまっていた。

起きてみると横に紙が置いてある。

娘はその紙を見た。

父親の治療費の請求書のようだった。

だが、おかしいのだ。

請求金額の欄には「0バーツ」と書かれている。

父親の治療費が無料だということだ。

それは、どう考えてもおかしいことだった。