動物の泣ける話

猫のたま

病弱な母がとても猫好きで、母が寝ているベッドの足元にはいつも猫が丸まっていた。

小さな頃は、母の側で寝られる猫が羨ましくて、私も猫を押し退けては母の足元で丸まっていた。

『たま』という名前の猫で、誰にも懐かず、母にだけ懐いていた。

そんな母が、自宅療養では治らないということで入院することになった。

入院してからすぐにたまは家出してしまい、母に

「たまどうしてる?」

と聞かれると、

「ちょっと寂しそうだけど元気だよ」

と言って誤魔化していた。

暫くして母は、入院の甲斐もなく病院で息を引き取った。

母に本当のことを言った方が良かったのかな…。

そう思っていたのだが、母が亡くなって数日後の夜、そのたまがひょこりと帰って来た。

見る影もなくやつれ果てたたまは、母のベッドによろよろと辿り着いた。

しかし、いつもなら飛び上がって昇れるベッドに昇ることが出来ない。

私が抱き上げてベッドに乗せてやると、いつもの母の足元の指定席で、丸まって眠ってしまった。

「何だか疲れ果ててるみたいだねぇ?」

と、そのままにして私達も眠った。

次の日の朝、見に行ってみると、たまはその場所で冷たくなっていた。

私と父で裏庭に埋めてやったのだが、その時に父が

「きっと、かーさんが寂しくてたまを呼んだんだろうな」

と、ぽつりと言った。

そんな父も既に亡くなり、私は今でも猫を飼っている。

この猫は私が呼んだら、来てくれるのだろうか。

膝の上で大きなあくびをしている、私の『たま』や。

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