男は毎日朝は6時代の電車で出勤、帰りは鉄板で終電でした。
昼飯も食べる時間も無いハ―ドワ―クで休日出勤や徹夜も頻繁でした。
そんな毎日の終電で必ず降りる駅で会う初老の女性がいました。その方は片足が不自由なようで歩き方が少しぎこちなく歩行速度も遅かったのです。
駅前にはコンビニが1件しかなく、男もその女性も晩御飯を買う為に必ず下車後にコンビニに寄りました。
自分自身の過労っぷりに疲れはてていたものの「体が不自由なのに毎日終電だなんて大変だなぁ… まぁ昼頃に出勤してるんだろうけど。」と思っていました。
そしてある日、男はいつもより一時間早く出勤しなければならず5時代の電車での出勤になりました。
その時でした、衝撃的な事実を知ったのは。
毎日終電で駅を降りるあの女性が出勤しようとしていたのです。
「え?自分よりも毎日一時間も早く出勤していたの?」と驚きを隠せませんでした。
その日を境に終電で駅を降りてコンビニで買い物をするまでその女性が転ばないか?という心配から必ず女性のゆっくりな歩行の後ろを歩いて気遣うようになり、コンビニでも会計を必ず女性の後にしてレジで困っていたら助けようと思い女性の次に会計をするようにしました。
コンビニからゆっくりと自宅方面へと歩いていく姿を見守り、見えなくなってから自分も自宅へ歩き出すという事が習慣となりました。
本当なら一分一秒でも早く家に帰りたいほどなのに。
そんな毎日のある日、女性のイヤフォンから音がもれて演歌が聴こえてきました。
男は帰りながら泣きました。
あんなに大変な毎日を不自由な体で過ごしている女性にとっての「楽しみ」を見つけられたからでした。
男は次第に終電での帰宅も減り、あの女性と会う機会はなくなっていきましたが、偶然自分も終電になった際には以前と変わらぬ見守ってから帰宅するという事は必ず行いました。
今ではその路線を使わなくなり、女性と会う機会はなくなってしまいましたが、無理せず元気でいてくれているだろうか?と気にはかけています。
そう、これは身の上話です。