家族の泣ける話 母親の話

風変わりなアピール

風変わりなアピール

30歳になる少し前に離婚した。

その一年半後に現在の妻を紹介された。

高校を出て7年間、妻は俺の祖母の兄が営む田舎町の店舗に勤めていた。

安い給料なのに真面目に働く良い娘だという事だった。

その店舗はあまり利益が上がらず、畳む予定であった。

そこで再就職先を紹介する代わりに、俺との縁談を持ち込んだのであった。

あまり期待はしていなかったが、それでも妻を見て正直言って断ろうと思った。

こけし人形を思わせる風貌で、化粧し慣れていませんと顔に書いてあった。

とても若い女性とは思えないファッションセンスも気持ちを萎えさせた。

だが贅沢も言えないと思い直し、適当に話を合わせていた。

暫くしてここは若い二人でという感じで放置された。

妻はモジモジしていたが、何かを決心したように核心に触れてきた。

妻「前の奥さんに逃げられたって本当ですか?」

俺「…はい、そうですよ」

妻「男を作られたって聞いてるんですけれど」

俺「…そうなりますね」

妻「職場の人に言い寄られたんですよね?」

随分不躾な事を言い出すなと思った。空気が読めないのかなと。

俺が答えずに居ると、細い目を思い切り開けて俺を見つめ、

妻「私は大丈夫ですよ」

俺「何がです?」

妻「私は今まで男の人に一度も口説かれた事がないんです」

俺「一度も全く?」

妻「そうです。共学だったし、知り合う機会も何度かあったのに」

俺「?」

妻「んだから安心できますよ!」

妻はドヤ顔をしていた。俺は笑ってしまった。

男に相手にされない事が何で自慢になるんだろうと思った。

でも妻のアピール(?)は俺の心へのピンポイント攻撃になった。

浮気の可能性がないと言うより、こいつと居ると面白いんだろうなと。

3ヶ月後には同棲を始め、すぐに籍を入れた。

妻は必要ないと言ったが、半年後に花嫁姿を見たいであろう御両親の事を考え、身重な妻と親族だけの神前結婚式を上げる事にした。

裕福ではないが純朴な御両親は、俺側の親族の前で何度も頭を下げ、妻を宜しくと言っていた。

「いい子です。自慢の娘です。高校しか行かせられなかったけど、大事に育てました」

それを聞いて妻は大泣きをした(飄々としている妻が泣いたのを見たのはこの時だけである)。

化粧が崩れたのを補正するため、式が始まる直前に志村けんの馬鹿殿並みの白塗りをした。

変でないかと不安そうに小声で訊ねる妻に、何度も「綺麗だよ」と言った。

本当にとても綺麗に見えた。

いつもどこかずれている妻と一緒になって十年余。子供3人もちょっとあれな感じだが、結構幸せである。

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