メル友との関係は、他のコミュニケーションとは少し違う、特別な形で心に残るものです。
顔を合わせることはなくても、メッセージを通じて深い部分でつながり合うことができる相手。その分、悲しい別れは強く心に残るものがあります。
大学生の健太は、ある日インターネット上で出会った同年代の女性・沙織とメル友になりました。
最初はちょっとした趣味の話や、日常の小さな出来事を共有する程度だったものの、メールを重ねるうちに、二人の間には特別な友情が芽生えていきました。
どちらも地元を離れた新生活に不安を抱え、大学生活に戸惑っている最中で、相手の存在が少しずつ支えになっていったのです。
沙織は、実は重い病気を抱えていましたが、健太にはそのことを隠していました。
「友達として、ただ一緒に日常を楽しみたい」と思っていた沙織にとって、健太は病気に触れずに自分を理解してくれる特別な相手でした。
しかし、健太もまた、沙織に相談できる友人ができたことがとても嬉しく、いつも励まされていました。
健太が講義でうまくいかないときや、サークル活動でトラブルがあったとき、沙織のメールが彼を元気づけてくれました。
一方で、沙織も体調が悪化して入院することが増えても、健太とのメールが楽しみで、病気のつらさを忘れられる時間が増えたと感じていました。
健太にだけは、病気の話を隠して元気な自分でいられる、それが彼女にとっての喜びでもあったのです。
数か月が過ぎ、ふたりのメールのやり取りはどんどん深くなり、家族や友人にすら話さないような秘密を打ち明け合うようになりました。
健太は、ある日ふと「こんなに話せる相手がいて幸せだな」と思い、沙織に対して感謝の気持ちをメールで伝えました。それに対して、沙織も「私も健太くんの存在に本当に感謝している。
こんなふうに楽しく過ごせる相手がいて幸せ」と返しました。沙織はそのとき、健太との友情をいつまでも続けたいと願いましたが、自分の健康状態が悪化していることを感じていました。
しばらくすると、沙織の返信が少しずつ遅くなり、内容も短くなっていきました。
健太は心配になり「体調でも悪いの?」と尋ねましたが、沙織は「ちょっと忙しくて、あまりメールができないんだ」とだけ返信してきました。
それから少しして、沙織からの連絡はぱったりと途絶えました。
健太は何度もメールを送りました。
「大丈夫?」「何かあったの?」と、メッセージを送り続けましたが、返事はありません。
最初はただ忙しいだけだと思い、待ち続けていましたが、次第に不安が募りました。
沙織が何らかのトラブルに巻き込まれたのではないかと、心配で眠れない夜が続きました。
それから数週間後、健太のもとに一通の手紙が届きました。それは沙織の家族からのもので、沙織が亡くなったことを知らせる内容でした。
彼女は長い闘病生活の末、ついに病気に勝てなかったというのです。
健太は信じられず、何度もその手紙を読み返しました。彼女の明るい言葉や、優しい返事を思い出すたびに涙が止まりませんでした。
沙織の家族は、彼女が病気を隠しながら健太とのメールを楽しんでいたことを話してくれました。
「あなたとのやり取りが、彼女にとって生きがいだったんです」と家族が言ったとき、健太は沙織の本当の気持ちを知り、彼女がどれほど自分との時間を大切に思っていたかを痛感しました。