普通の一家の物語



その昔、大学の同級生の女の子にがりがりに痩せた子が居た。

細身の娘が好みだったので声を掛け、程なく恋仲に。

ある日、

「心臓に大穴が空いていて、苦しい。

子供も無理。諦めるなら今のうち」

と告白された。

本人は死ぬ気だったらしい。

それでも迷うことなく、恋人のまま。

出来る手術があるのならと、方々の心臓外科を探しまくって何とか手術に漕ぎ着けた。

どきどき。

成功した。嬉しかった。術後も良好。

でも、子供は無理。受胎しないだろうと言われた。

当然、親同士は結婚に猛反対。

俺の親は勿論、向こうの両親も。無視。

無視し続けても尚、説得も続け、6年掛けてやっと挙式・入籍。

十年後、余程経過が良かったのか、妊娠が発覚。

主治医に相談したら、

「妊娠できたのなら出産は問題ないだろう。挑戦しましょう」

お前、俺の女房だぞ、俺の子供だぞ、大丈夫なんだろうなぁ。

どきどき。

無事出産。3,000グラムの元気な男の子。

あまりに嬉しくて、二寸ほど宙に浮いていた。

半年後、かみさんに似たような心臓障害が発覚。

成長しないだろうってどういう事?

「様子を見ながら出来るものなら手術をしましょう」

かみさんの執刀医の紹介で、小児心臓外科の先生にお願いする。

大事な一粒種、殺すなよ。頼むから。

どきどき。

成功した。これ以上ないくらい。

あれから15年。ころころ太ったかみさんが居る。

「うぜえんだよ、親父」

憎まれ口をきく、ちょっと小振りな男子高校生が居る。

ここに、冴えないサラリーマンの普通の一家がある。

かみさんにも、せがれにも言わないが、幸せを噛みしめている。