家族全員の守り神



柴犬のモコが来てから、家は明るくなりました。
娘のさくらが生まれてからはお姉ちゃんのように育児にも協力してくれる心強い存在です。特にさくらはモコのおかげで寂しい思いをすることもなく、活発な子へと成長していきました。第一次反抗期に突入してからも、言い争いが激しくなるとモコが仲裁に入るように駆け寄ってくるので、私は怒鳴らずに済み、さくらもモコに促されるように「ごめんなさい」と謝ることができました。

そんなモコもすでに13才となり、昔のように遊びまわることはなくなったある夜のこと。
急に起き上がってキョロキョロしたかと思うと、部屋の中をぐるぐると回り始めたのです。お腹すいたのかな?と思い、低カロリーのおやつをあげようとしますが、一切興味を示しません。小さくうなりながらドアの前をウロウロしつつ、私のほうを振り返ります。ドアを開けてと言っているように思えたので、その通りにすると一目散に出て行ってしまいました。

玄関も窓もちゃんと閉めているので外に飛び出す恐れはありませんが、心配になりついていくと、玄関のドアに向かってほえたり、ドアノブに手(前足)をかけようと飛び跳ね始めたのです。「どうしたの?外に出たいの?」と声をかけて抱きかかえようとしますが、身をよじって抵抗して、またドアと格闘を開始します。

リードをつけて外に出したら落ちつくだろうか、でも、この勢いのまま飛び出されたら、リードをつかんでいても制御できないかもしれない。そう悩んでどうすることもできずにいると、ポケットの携帯が鳴ったのです。それは夫の同僚からで、「飲んでいてもうすぐ家に着くけれど、夫がケガをしているので救急箱を用意してほしい」という電話でした。私が電話に出ると、なぜかモコはおとなしくなりただ黙ってドアのほうを向いて座っています。

どの程度のケガか聞き忘れてしまったので消毒液や絆創膏、包帯などの一式を用意して玄関に戻ると、ほぼ同時にドアが開いて、同僚に支えられた夫が入ってきました。モコは真っ先に夫に駆け寄り、血がついた頬をなめています。しかし、私が手当てをするために近寄るとサッとどいて、今度は夫の横で心配そうに寄り添っています。出血のせいか青白い顔をしていた夫はモコがいることで安心したのか、苦笑しながら「ごめん…ちょっとやっちゃった」と言って、上がり間に座りました。その後は手当てをしたり、同僚の方に上がってもらって話を聞いたり、起きてきたさくらにモコと一緒に寝るように言ったりとてんやわんやでした。

あれだけ騒いでいたモコは夫の手当てが終わると、今度は心配そうなさくらを「はい、寝るよー」と言わんばかりに服をひっぱったり、鼻先で体を押すようにしてくれたのです。

同僚の方の話によると道で夫が酔っ払いに絡まれたのと、モコが急に起きたのがほぼ同じ時間でした。それから電話で連絡があるまでモコはずーっと玄関で騒いでいたと告げると、夫は「さすがうちの守り神だな」と自慢し、同僚の方は「へー不思議なこともあるんですね」と驚いていました。私もモコがそばにいてくれたから、落ちついて準備がして手当てもできたのだと思います。さらに、「パパが心配だから」と夜更かしするところだったさくらまで寝かしつけてくれたというおまけつきです。

モコは娘の遊び相手兼、子守り役だと思っていましたが、なんのことはない。家族みんなを守ってくれているリーダーで、我が家の守り神だったのです。