玲奈と祐介が出会ったのは、友人の紹介で参加した合コンだった。
玲奈は28歳の化粧品メーカーの会社員、普段は仕事に一生懸命で恋愛は二の次。
祐介は30歳で広告代理店に勤め、明るくて話し上手な人だった。
玲奈は一見、明るくて人懐っこい祐介に惹かれながらも、自分が恋愛に不器用であることから一歩踏み出せずにいた。
しかし、そんな彼女に祐介は真剣にアプローチを続け、ふたりは交際に至った。
付き合って3年が経つ頃には、お互いの親にも紹介し合い、結婚を視野に入れて同棲を始めていた。
ふたりの生活は穏やかで、たわいもない会話や食事をともにすることに幸福を感じていた。
そんなある日、祐介が突然、激しい腹痛で倒れ、緊急入院することになった。
玲奈は急いで病院に駆けつけ、祐介の診断結果を聞くことになる。
「大腸がんです。しかも進行が早く、治療を急がなければなりません。」
医師からの説明に、玲奈の頭は真っ白になった。
なぜ、彼がそんな病気に? ついさっきまで元気に笑っていた彼が、病室で苦しんでいる現実が信じられなかった。
祐介もショックを隠しきれない様子だったが、彼は玲奈に気を使い、強がりながら「俺、頑張るから」と微笑んだ。
玲奈は彼に何も言えず、ただその手を握り返すことしかできなかった。
それからの日々は、二人にとって試練の日々だった。祐介は抗がん剤治療を受け、髪も抜け、体力も落ちていった。
それでも彼は、「玲奈のために、絶対に治す」と強い意志を見せ続けていた。
玲奈はそんな祐介を支えることに全力を注いだ。
仕事を早めに切り上げ、毎日病院へ通い、彼の手を握りしめ、励まし続けた。
ふたりの会話はいつも同じだった。「退院したら何をしたい?」「元気になったらどこに行こう?」と未来の話をすることで、希望を見出していたのだ。
しかし、祐介の病状はなかなか好転せず、時には絶望的な気持ちに襲われることもあった。
それでも、玲奈の支えが彼の心の支えとなっていた。
ある日、祐介が玲奈に真剣な顔で話しかけてきた。
「玲奈、俺から離れてほしい。」その言葉に、玲奈は驚きと悲しみで胸が締め付けられた。
「なんで? 私は祐介と一緒にいたいの。ずっと支えるって決めたのに。」
しかし祐介はかぶりを振り、目をそらした。
「俺と一緒にいると、玲奈が不幸になるんじゃないかって思うんだ。いつまでも玲奈の負担になりたくないんだ。」
玲奈は泣きながら言った。「何言ってるの? 私にとって祐介は大切な人なんだから、そんな風に思わないで。
祐介が辛い時にそばにいることが、私にとっての幸せなの。」
祐介はその言葉を聞いて涙をこらえながら「ありがとう、玲奈。本当にありがとう」と呟き、彼女を抱きしめた。
ふたりの絆はより一層深まり、お互いの存在がかけがえのないものだと再確認する瞬間だった。
しばらくして、祐介の体調が少し持ち直した時期があった。玲奈はこのチャンスを逃さず、ふたりで温泉旅行に行こうと提案した。
祐介も快諾し、彼らは遠くの温泉地へと出かけた。
久しぶりの外出に祐介は少し疲れた様子だったが、嬉しそうに笑顔を見せていた。
温泉に浸かり、ふたりはこれまでの思い出を語り合った。祐介は「玲奈と過ごしたこの3年間、俺にとって最高の時間だったよ。
本当にありがとう。」と玲奈に伝えた。玲奈はそれを聞き、彼が遠くへ行ってしまうような予感を覚え、泣き出してしまった。
祐介はそっと玲奈の肩を抱き、「泣くなよ。俺は幸せだったから、悲しまないでほしい。」と優しく言った。
その言葉に、玲奈はさらに涙を流しながらも、「ありがとう」と彼に微笑んだ。
旅行から帰って数日後、祐介の病状は急変し、彼は再び入院することになった。
玲奈は不安と恐怖にさいなまれながらも、毎日彼のそばに寄り添い、祐介が少しでも安心できるようにと努めていた。
そしてある夜、祐介は玲奈に手紙を渡した。
「これ、俺がいなくなったら読んでほしい。」玲奈はその手紙を見つめ、涙をこらえながらうなずいた。
それから数日後、祐介は静かに息を引き取った。玲奈は彼の最期を見届け、彼が去ってしまった現実を受け入れることができず、しばらくは泣き続けた。
彼が残した手紙にはこう書かれていた。
玲奈へ
君と出会えて、本当に幸せだった。君と過ごした時間は、俺の宝物だよ。
俺は先に行くけれど、君には素敵な未来が待っていると信じてる。
いつか君がまた笑顔で過ごせる日が来ることを願ってる。
玲奈、どうか俺を忘れないで。でも、俺に縛られることなく、自由に生きてほしい。
君にはその価値があるから。
ありがとう、愛してるよ。
祐介
手紙を読み終えた玲奈は、涙が止まらなかった。
それでも祐介の想いを胸に、彼が望んだように前を向いて生きることを誓った。
それから数年が経ち、玲奈は祐介との思い出を大切にしながらも、少しずつ日常を取り戻していった。
新しい友人、そして新しい仕事に挑戦し、彼女の周りには笑顔が戻りつつあった。
祐介のことを忘れることはない。
しかし彼が望んでくれたように、玲奈はその愛と共に、次のステージに向かって一歩を踏み出す決心をしたのだった。